京都医療科学大学は、日本で最も長い歴史を持つ「診療放射線技師養成」の単科大学です。
長年にわたり、診療放射線技師の育成に携わってきた本学だからこそ、「診療放射線技師とは何か?」「放射線を学ぶことにどんな価値があるのか?」といった疑問にお答えすることができます!
この連載では、京都医療科学大学の個性豊かな教員に、放射線の仕組みや診療放射線技師の魅力、この大学で学ぶ意義などについて聞いていきたいと思います。
Vol.1後編では、放射線技術科の霜村 康平(しもむら こうへい)講師に、今取り組んでおられる研究テーマや教員としてのこだわり、京都医療科学大学の魅力についてお聞きしました。
前編では、放射線の仕組みや診療放射線技師の魅力、最新の医療トレンドなどをお聞きしています。合わせてチェックしてみてください。
【霜村 康平(しもむら こうへい):診療放射線技師、放射線治療専門放射線技師、医学物理士】
京都医療科学大学を卒業し、名古屋大学に編入。卒業後、医療機関で診療放射線技師として11年従事したあと、2018年に京都医療科学大学の教員に着任。専門分野は、放射線治療、放射線計測など。担当する、放射線治療技術学、診療放射線技術学概論などの科目では、診療放射線技師、研究員としての経験を活かした、「実践的な生きた知識が楽しく学べる授業」を実践。学生たちに診療放射線技師の魅力や意義を伝えている。
もくじ
放射線治療の効果と安全性を向上!
患者さんに最適な治療効果を提供するために
――霜村先生、よろしくお願いします!さっそくですが、今取り組んでおられる研究について教えてください。
こちらこそよろしくお願いします。
私の研究は大きく分けて二つあり、一つ目は放射線量をより正確に計測するための研究です。
――具体的にはどのような研究ですか?
放射線は、扱い方を間違えると非常に危険なものであるためその量を正確に測定することが求められます。しかし、目で見ることができないため、放射線を光や電気に置き換えて、放射線の量を測る方法が一般的です。
放射線は、物に当たると電子を放出させる性質があります。放出された電子の数、いわゆる電気の量を測ることで、『どのくらいの放射線が当たったのか?』を知ることができます。
ただし、この電気の量や放射線の量は、測定器によってさまざまな補正をする必要があります。適切な補正が正確な放射線量の計測に直結するため、この補正の精度を高める研究に力を入れています。
――その研究はどのように活用できるのでしょうか?
放射線の測定精度を高めることで、放射線治療にて必要な線量を適切に病巣に投与するために役立ちます。
――なるほど。ちなみにそれは、どのくらい正確なのでしょう?
計測する機器によって正確さは異なります。放射線の利用方法によって求められる精度は異なり、医療以外のジャンルでは誤差が10%程度出るものもあります。放射線治療の場合は、「2.5%以内」という国際的な推奨があり、かなり正確な計測精度が求められます。
最新の放射線治療を多くの患者さんたちへ
医療体制を整備する重要性とは?
――二つ目の研究テーマについても教えてください。
最先端テクノロジーの導入により放射線治療の技術は向上しましたが、最先端の治療技術の活用は、国際的にも思ったように進んでいないのが現状です。
この課題解決のため、高度な放射線治療を日本全国に広める取り組みを行っています。
――具体的にはどのような取り組みになるのでしょうか?
全国の医療機関の放射線治療に関する「装置、人材、患者数」などのデータを収集し、「現状を把握」、「課題を見つける」、「解決策の提言」が主な取り組みです。
調査から、高精度な放射線治療である強度変調放射線治療の実施に必要な医療者の人材不足が明らかになりました。必要な人材育成と現場への配置に向けた施策を提言する活動に加わっています。
どれだけ高度な技術が研究開発されてもその技術が広まらなければ患者さんたちには行き届きません。放射線治療を提供できる医療機関は全国に約800施設あるのですが、高度な放射線治療である強度変調放射線治療はその半分以下であるのが現状です。
日本全国の医療現場にて実施できるよう、厚生労働省の補助を受けて活動をしております。診療放射線技師の立場から課題解決に向けて、研究分担者として加わっています。
学びが楽しくて仕方がない!
霜村先生が意識する”現場”のイメージを加えた「生きた知識」とは?
――そもそも先生はなぜ放射線という分野に興味を持ったのでしょう?
幼馴染の父親が診療放射線技師だったのがきっかけですね。職人っぽくてかっこいいといったイメージもありましたし、他にやりたいこともなかったので、自然と自分も診療放射線技師を目指すことになったのです。
また、10歳年上の姉が診療放射線技師だったのも大きいです。進路を考えるタイミングは就職難が叫ばれていた時代だったのですが、姉を見ていると経済的に安定していたように感じました。
なので、最初から強い興味があったかというと、そんなことはないですね(笑)。
――でも、医療系の勉強はとても大変そうに感じますが・・・実際はどうでしたか?
最初は軽い気持ちで入学しましたが、入学後は学びへの意欲や興味が一気に増し、夢中になって勉強していました。ただ覚えるだけでなく、「なぜ覚える必要があるのか?」といった目的とその背景を丁寧に伝えてくれる先生との出会いがあったからです。
診療放射線技師になるには、検査や治療に関わる知識や技術だけでなく、放射線に関わる法律も身に付ける必要があり、暗記するだけだとすごく苦労します。
ただ、「なぜその法律ができたのか?」「どのようなシーンで効力を持つのか?」といった社会的な背景を踏まえて、すごく丁寧に解説していただき、理解がどんどん深まり、それに伴って興味も増していきました。
小中高では学ぶ目的がわからず、学ぶことへの興味が薄れていたのですが、本学の先生との出会いは当たりでしたね(笑)。
好奇心が刺激されるとても楽しい授業ばかりでした。
――先生の場合はどうでしょう?ご自身の授業や学生さんと関わるときに注意していることはありますか?
この大学の学生の目的は、例外なく診療放射線技師の国家試験に合格することです。
ただ、試験のための勉強って覚えるだけなので、全然楽しくないんですよ。なぜ楽しくないのかというと、「実務にどのようにつながっているのか?」がよく分からないからなんです。知識と実際の仕事とのつながりが曖昧だと、勉強の意味が見えづらくて、やる気が出にくいんですよね。
なので、私たちの本質的な役割は、試験合格後のキャリアに役立つ知識やマインドを身に付けてもらうことだと考えています。
試験に合格するための内容をメインにカリキュラムを組みますが、必ずその知識が、実際の現場でどのように活用されるのかを交えて、具体的なイメージを伝えるようにしています。
試験合格は当たり前。その先を見据え、この学びが就職後どう役立つのか、イメージできるように指導することを大切にしています。
診療放射線技師に必要なあらゆる力を短期間で習得!
京都医療科学大学の魅力と意義
――教育者としてのこだわりをお聞きしていると、この大学の魅力の一端を知れたような気がしました。先生は母校である京都医療科学大学の魅力はどこにあると考えていますか?
大きくは3点あると思います。それぞれについて解説しますね。
■単科大学ならではの専門性と学びの濃さ
まず1点目は、診療放射線技師に特化した単科大学であるという点です。すべての学生が診療放射線技師になることを目指していますし、全教職員はそれをサポートすることに徹しています。つまり、この大学に集まるすべての人が同じ志を共有しているということです。
学生一人ひとりに対して、診療放射線技師の教員が各放射線技術分野の専門性に特化して的確な指導をします。また、文学、英語、心理学等を専門とする教員が、診療放射線技師が医療人として求められる一般的な教養について、手厚くサポートすることができます。
さらに、同学年だけでなく学年間で、協力しあい学び合う環境が整っており、目標を達成するためのモチベーションを高め維持しやすいこともメリットだと思います。
■島津製作所を母体として実践的な学習環境
2点目は、医療機器メーカーである島津製作所が母体である点も、この大学の魅力ですね。
実際の病院で使われている医療機器を使った実習が学内で行えるので、かなり実践的です。学生時代に多くの医療機器を扱う経験は、実際に現場に立った時の大きなアドバンテージになるはずです。
また、島津製作所のネットワークを活用した、台湾・中国・ベトナムなどへの海外研修や現地医療機関の見学といったプログラムが充実しているのも魅力ですね。興味がある方は、実践的な知識・スキルだけでなく、グローバルな視野を養う環境も整っています。
■長い歴史と卒業生ネットワークによる就職支援
3点目は、歴史があるというところでしょうか。
京都医療科学大学は、1927年に創立した日本で一番古い診療放射線技師の教育機関で、この大学の魅力であり唯一無二の個性だと思います。
高校生の皆さんにとっては、歴史は実用性が少ないように感じるかもしれませんが、卒業生が全国に存在している点は、どこにも負けないメリットで、就活の時などは必ず武器になると思います。
なお余談ですが、歴史ある学内には貴重な資料がたくさん眠っており、日本診療放射線技師会と協力して現在、これらの資料を保管するために編集を行っています。
過去の研究者たちがどのような課題に直面し、それをどう乗り越えてきたのかを知ることで、現代の私たちが抱える問題の解決策や診療放射線技師の未来を考える際のヒントが得られると感じ、協力させてもらっています。
少し脱線しましたが、診療放射線技師に特化した教育環境や、実践的な学びを提供することができる点、そして長い歴史と卒業生ネットワークを活かした就職支援の充実ぶりは、この大学の大きな魅力だと思います。
――診療放射線技師を目指す学生にとっては至れり尽くせりですね……!最後に、京都医療科学大学に興味を持つ学生にメッセージをお願いしたいのですが、いかがでしょうか?
診療放射線技師は、単に医療機器を扱う技術者ではなく、患者さんの感情に寄り添い、より良い検査や治療を行うためのパートナーのような存在と考えています。
私たちの授業では、診療放射線技師に必要な知識やスキルの習得は当然、医療者として患者さんの気持ちを理解し柔軟に対応する力も育てています。京都医療科学大学には、診療放射線技師に必要な力を効率的に学べるノウハウがあります。
かつての私のように、「経済的に安定しそう」「職人っぽくてなんとなくかっこいい」など、動機はどんなことでも問題ありません。
少しでも診療放射線技師という職業に興味がある方は、ぜひこの世界に飛び込んできてください。
同じ志を持つ仲間たちと一緒に、診療放射線技師として放射線医学の未来を創りましょう。
――素晴らしいメッセージだと思います!霜村先生、本日は誠にありがとうございました。